ジャンル: 経済・ビジネス
英語難易度: ★★☆
オススメ度: ★★☆☆☆
名著「The Innovator’s dilemma (イノベーションのジレンマ)」(44冊目に感想)の続編 。 前作を読んで「破壊的イノベーション」の衝撃と腹落ち感を受けた経験から比べると、本作はちょっと物足りなく感じました。 なんて言うんでしょうか、学者さんが唱える机上の空論のような気がしてしまって…
破壊的イノベーション(Disruptive innovation) とは、従来とはまったく異なったアプローチでビジネス全体の絵姿を変えてしまい、既存企業を一掃してしまうような革命的なイノベーションのことを言います。どちらの企業もみんなコレを目指すんですが、うまく行かないのは世の常。過去の成功体験が邪魔をして思い切ったアクションが取れない、つまり破壊的なイノベーションは生み出せない。それは確かにそうでしょう。しかし、この本にあるように、仮に強制的にその「破壊的イノベーション」を育む環境を作り出したからといって必ずうまく行くとは限らないと思います。 そりゃ挑戦しなければ、そもそもそのようなイノベーションが生まれないのは当然ですが、それがうまく行くのは、まぐれ、ラッキーの要素がかなり占めているんじゃないでしょうか。 どんな事象についても原因結果に結びつけて考えがちですが、実際にはセオリー通り行かないことの方が多いですよね。
ノムさんは言いました。「負けに不思議の負けなし、勝ちに不思議の勝ちあり。」 つまり、失敗する場合にはハッキリと下手を打った理由があるのに対して、上手くいった場合には、成功要因に加えて、まぐれ、ラッキーな要素が入ってくるからだと思います。 この本の通りにやれば将来成功するとの保証はありませんが(あればみんなマネしてます) 、過去の事象についてはよく分析して納得感を与えてくれます。 少なくとも、これをやらかすと失敗するぞ、というケースを知るには本書は役立つと思います。
ですので、これこそ「勝利の方程式を解いた本です」などとの触れ込みで売っているビジネス本を見かけたら、半径1メートル以内には近寄らない方がいいですよ。
(2003年発刊)
メモポイント
⚫︎ 上手く行っている企業の見た目だけを真似しても、そのメカニズムを理解していないので、失敗してしまう。
Consider, for illustration, the history of man’s attempts to fly. Early researchers observed strong correlations between being able to fly and having feathers and wings. Possessing these attributes had a high correlation with the ability to fly, but when humans attempted to follow the “best practices” of the most successful flyers by strapping feathered wings onto their arms, jumping off cliffs, and flapping hard, they were not successful—because as strong as the correlations were, the would-be aviators had not understood the fundamental causal mechanism that enabled certain animals to fly.
フィインマン言うところの「カーゴ・カルト」の話を思い出す。 かつて飛行機が飛来してその恩恵を受けていた未開の地の種族。ある事情により飛行機が来ることが無くなったのだが、その現地の人々はその飛行場とそっくりの形の造形物を木と石で作り、また飛行機が舞い降りてくるのをじっと待っていたと言うお話。
⚫︎ 破壊的イノベーションとは、従来のビジネスにあるような「改善」と言ったレベルではなく、よりシンプルで便利で安価であり、ゴッソリと新たな顧客を開拓するような手法である。
Disruptive innovations, in contrast, don’t attempt to bring better products to established customers in existing markets. Rather, they disrupt and redefine that trajectory by introducing products and services that are not as good as currently available products. But disruptive technologies offer other benefits—typically, they are simpler, more convenient, and less expensive products that appeal to new or less-demanding customers.
Once the disruptive product gains a foothold in new or low-end markets, the improvement cycle begins.
スマホの台頭により、カメラのニーズが徐々に減少したの代表的な例。 特にローエンドユーザーは、より安価で使い易い機器に流れた。一方、既存のカメラメーカーは、よりハイエンドユーザーに焦点を絞り高マージンを得られると考え、市場全体を奪われるという将来リスクを予見できなかったケースが多い。
Because new-market disruptions compete against nonconsumption, the incumbent leaders feel no pain and little threat until the disruption is in its final stages. In fact, when the disruptors begin pulling customers out of the low end of the original value network, it actually feels good to the leading firms, because as they move up-market in their own world, for a time they are replacing the low-margin revenues that disruptors steal, with higher-margin revenues from sustaining innovations.
⚫︎ マーケットの分析で大事なのは、顧客層そのものではなく、その顧客がどのような環境(状況)にあるかを捉える必要がある。
つまり顧客層を年齢や性別、地域等によってカテゴライズして押さえることは、その相関関係を利用する事によりある程度は有益かも知れないが、それよりもその顧客のニーズ、なぜそれを必要としたか、を理解することの方が、ピンポイントで顧客のハートをつかむことができるのである。 カテゴリー分けされたマーケットの期待値を探るのではなく、顧客は何を解決したいか、を探らなければ商品開発は失敗する
Companies that target their products at the circumstances in which customers find themselves, rather than at the customers themselves, are those that can launch predictably successful products. Put another way, the critical unit of analysis is the circumstance and not the customer.
⚫︎ 強みとは、あなたが得意なものではなく、顧客が欲するもののことである。 そして強みを維持するには、過去の栄光にすがることなく常に新たな事を学び続ける必要がある。
Competitiveness is far more about doing what customers value than doing what you think you’re good at. And staying competitive as the basis of competition shifts necessarily requires a willingness and ability to learn new things rather than clinging hopefully to the sources of past glory.
⚫︎ スタートアップで大事なのは、売上は気にしない、しかし利益は気にしろ、ということ。利益構造ができていないと話は始まらない。僅かでも利益が出る構造にして、徐々に売上を伸ばしていくべき。 急激な売上の増加は無謀な先行投資を招きがちであり、最後には破滅をもたらす。
We have concluded that the best money during the nascent years of a business is patient for growth but impatient for profit. Our purpose in this chapter is to help corporate executives understand why this type of money tends to facilitate success, and to see how the other category of capital—which is impatient for growth but patient for profit—is likely to condemn innovators to a death march if it is invested at early stages.
破壊的イノベーションを理解するには何と言っても上述の「The Innovator’s Dilemma 」が一番なのですが、実例としては先日読んだ「コンテナ物語」(265冊目)が分かりやすかったと思います。 コンテナというただのハコの登場が、港湾業界の構造と景観をそっくり変えてしまいました。少し冗長な書き方だと感じましたが、業界の主流が移っていく様が良く描かれています。